今年の日本ハムの本塁打量産は、以下の4点が主な要因だと考えられます。
1. チームとして“当てにいく打撃”より“長打を作る打撃”へ、かなり明確に舵を切っていること
2. 2025年オフから、打撃コーチ陣が個別面談とフォーム修正をかなり細かく進めたこと
3. 野村・万波・清宮ら主力が、ちょうど“技術の伸び”と“役割の固定”が重なる年齢と段階に入ったこと
4. エスコンの球場特性が、その打撃方針と噛み合っていること
その順番で整理すると、かなり腑に落ちます。
まず前提として、今年だけ突然変わったわけではない
ここを最初に押さえるのが大事です。
日本ハムは2025年も143試合で129本塁打を記録していて、すでに12球団トップでした。つまり、2026年の量産は“ゼロから突然できるようになった”のではなく、昨年すでにできていた長打路線を、今年さらに先鋭化させていると見るほうが正確です。さらに2026年は4月23日時点で23試合34本塁打、長打率.429で、2位ソフトバンクの21本、長打率.371を大きく上回っています。去年から強かった長打力が、今年は序盤からより濃く出ている状態です。
だから「なぜ量産体制になったのか」を言い換えると、
“なぜ昨年の長打路線が、今年はさらに再現性を持って回っているのか”
という問いになります。
1. いちばん大きいのは、新庄監督が“長打優先”を隠さなくなったこと
今年の日本ハムで最もわかりやすい変化は、長打を狙うことが個人の自由ではなく、チームの共通方針として言語化されている点です。
象徴的なのが、新庄監督の春先のコメントです。日刊スポーツによると、新庄監督は西川遥輝に対して、追い込まれてから当てにいく案を「ダメ」と一蹴し、「三振してもいいから今のを続けなさい」と伝えています。しかも記事では、新庄監督が「単打は見飽きてる。新しい西川遥輝君を見たい」とまで言っていて、これはかなり強いメッセージです。単に“長打もほしい”ではなく、三振増と引き換えでも長打のリターンを取りに行くという思想が、監督レベルで明確になっている。
実際、2026年のチーム成績を見ると、日本ハムは23試合で34本塁打、長打率.429の一方で、189三振も記録しています。これは“コンタクト重視で三振を減らす打線”ではありません。むしろ、多少の三振は受け入れてでも、仕留めた球を強く上げる打線です。数字と監督コメントがきれいにつながっています。
ここが昨年までと違うというより、昨年の成功体験を、今年はより徹底しているのが大きいです。
新庄監督自身も、4月上旬に一発攻勢の要因を聞かれて「みんなの実力」「練習の成果」としたうえで、横尾打撃コーチ、山崎武司臨時コーチ、さらに前任の八木打撃コーチの名前を挙げ、「八木さんが常に『ホームランを狙わないと打てないよ』という指導をしてくれていたのが、ものすごく大きい」と話しています。つまり今年の量産は、急に方針転換したというより、数年かけて作ってきた“ホームランを狙っていい打線”が、今年さらに熟してきたと見るべきです。
2. 今年はコーチングの“個別最適化”が強まっている
もうひとつ大きいのは、2025年オフからの打撃指導のやり方です。
日本ハムは2026年から、横尾俊建が1軍打撃コーチ、佐藤友亮が1軍打撃コーディネーターになりました。2人ともチーム内部からの昇格で、特に横尾は2軍打撃コーチから1軍へ上がった形です。球団発表でも正式にそうなっていますし、報道では横尾について有薗直輝ら若手育成に定評があると紹介されています。
この人事が効いていると思う理由は、単に“新コーチだから”ではありません。
デイリーの記事で横尾コーチは、昨季終了後から「秋のキャンプから一人ずつのミーティングを本当に細かく、打撃をかみ砕いてミーティングできた」と話しています。これはかなり重要です。チーム方針だけだと抽象論で終わりがちですが、日本ハムはそこを選手ごとに分解して落とし込んだ。
つまり今年の長打増は、
「みんなもっとホームランを狙え」
という雑な話ではなく、
“チームとして長打を増やす”という目標を、各選手のフォームやバットやアプローチの修正に変換できていることが大きい。
ここが強いチームの打撃改革です。
同じ“長打を増やしたい”でも、選手ごとに課題は違います。
始動が早すぎる選手もいれば、テイクバックで力む選手もいる。バットが軽すぎる選手もいれば、スイング軌道が弱い選手もいる。日本ハムは今年、それをかなり個別にさばいている感じがあります。
3. 山崎武司の招聘は、“ホームランの打ち方”ではなく“いい打ち方”の補強だった
春季キャンプでの山崎武司の臨時コーチ招聘も、かなり大きいです。
しかも面白いのは、山崎氏が教えているのが単なる“強振の仕方”ではないことです。
山崎氏は野村佑希について、テイクバックで手が突っ張って止まることで、体が開いたり動きが遅くなってバットが走らないと指摘し、手を少し動かして打つ感覚を伝えました。さらに記事では、山崎氏が右の強打者たちに共通して伝えていたのは、「本塁打の打ち方ではなく、いい打ち方」だと整理されています。確実性が上がれば、彼らのパワーなら本塁打はその延長線上で増える、という考え方です。
これはかなり本質的です。
本塁打を増やそうとして失敗するチームは、しばしば「もっと振れ」「もっと上げろ」で終わります。そうすると、スイングが大きくなるだけで、芯に当たらなくなる。
一方、日本ハムがやっているのはたぶん逆で、長打を狙う思想は強いが、技術指導はむしろ細かい。
体の開き、バットの出、手の動き、始動、重さ。そこを整えた結果として、本塁打が増えるようにしている。だから“量産体制”になる。
デイリーでも、春季キャンプで万波や野村が打撃フォームの修正に取り組み、野村と西川は新庄監督の指令でバットも変更したと報じられています。チーム方針がフォーム修正や道具変更まで降りてきているのは、かなり踏み込んだ改革です。
4. 主力が“教えても伸びる年齢”に来たのも大きい
方針やコーチだけでは、本塁打は増えません。
やはり最後は、選手側がその方針を体現できる年齢と段階にいるかどうかです。
今の日本ハムは、万波、清宮、野村といった主力が、ちょうど「若手有望株」から「結果を出す主力」へ移るタイミングにあります。4月23日時点で万波は8本塁打でリーグトップ、清宮は5本塁打・長打率.494、レイエスは3本塁打・長打率.468と、長打役が複数立っています。しかも万波は打率.235でも長打率.543、清宮は打率.294と出塁率.388を両立していて、タイプも少し違う。ひとりが爆発しているというより、長打を出せる複数の打者が同時に育っている状態です。
新庄監督が4月5日の時点で「狙ってんのかな、みんな。何か出そうじゃない?」と話しているのも、打線全体に“振りに行く共通感覚”が出ていることの表れでしょう。個人技というより、チーム内で長打の成功体験が共有されている感じがあります。
ここが去年との違いでもあります。
2025年は129本塁打でトップでしたが、今年はその土台の上に、主力の成熟と役割固定がさらに進んでいる。
要するに、去年は「長打が出る打線」だったのが、今年は「長打を前提に組める打線」へ少し進んでいるんです。
5. 球場要因は“今年急に変わった理由”ではないが、この打線を後押ししている
球場の話も大事ですが、ここは少し整理が必要です。
エスコンの存在は追い風です。ただし、今年だけ急に本塁打が増えた直接原因ではありません。エスコン移転は2023年からなので、「2025→2026で何が変わったか」の答えとしては主因ではないです。
ただし、今の長打志向の打線を成立させやすい環境であるのは確かです。エスコンは、左右非対称で外野の膨らみが小さく、低いところではフェンス高が約2.8メートルで、札幌ドームより打者有利になりうる形状をしています。札幌ドームは外野フェンスが高く、過去3年間で本拠地1試合あたり本塁打数がパ・リーグ最少だったのに対し、エスコンはフライ傾向の打線により合う可能性がある、という見立てでした。
つまり球場については、
「今年の改革そのもの」ではないが、「改革の効果が数字に出やすい器」
だと考えるのが自然です。
仮にこの打線が札幌ドーム時代にあったとしても、本塁打数は多少削られていたかもしれません。逆にエスコンだからこそ、チームとして「長打を狙う価値」がより大きい。
だから球場は原因というより、方針を後押しする増幅装置です。
4月23日時点のNPB公式成績では、万波は8本塁打、清宮は5本塁打、野村は4本塁打。前年は万波20本、清宮12本、野村8本だったので、3人ともかなり強いペースに入っています。
この3人がそれぞれ何がどう変わったのかを分析していきます。
清宮幸太郎
いちばん大きいのは、「全部を強く振る」のではなく「狙い球を強く振る」に変わっていること
清宮は2025年に138試合12本塁打、長打率.392でしたが、2026年は4月23日時点で23試合5本塁打、長打率.494。数字だけ見ても、単純な積み上げではなく、長打の密度自体が上がっていることがわかります。
今の清宮で目立つのは、狙いの整理です。4月9日の勝ち越し3ランのあと、本人は「ゲッツーがよぎる場面だったので、とにかく目付けを高くして、高めのボールを狙って打ちに行った」と話しています。これはかなり重要で、ただ強振しているのではなく、どの高さを仕留めるかを先に決めて打席に入っているということです。実際、長打が増える打者は、漠然と“全部打とう”とするより、狙い球を絞ったときのスイングのほうが強くなります。
もうひとつ、オフの取り組みも効いていると思います。清宮は秋季キャンプ初日に、太さや重さの違う複数のバットを使い、「小手先じゃ振れないようにして、ちゃんと連動させたい」という趣旨のことを話しています。これは要するに、手先で合わせるのではなく、体全体で同じスイングを出せるようにしようとしていたわけです。
この2つを合わせると、清宮に起きている変化はこう言えます。
去年までの清宮は、率も残せるが、長打の出方は少し散発的でした。今季はそこが、「狙い球を決める」+「体の連動で振り切る」に整理されている。だから打球が上がるし、引っ張り一辺倒ではなく左中間方向にも強い打球が出やすい。打撃技術で言えば、清宮は今、スイングを大きくしたというより、スイングの“迷い”を減らしたことで本塁打が増えていると見るのが近いです。これは3人の中でいちばん“打席設計の改善”に近い変化だと思います。
参照:【シーズン143発ペース】清宮幸太郎『爆発ドミ太郎!!! 圧巻の1試合2発…華麗なる放物線にエスコン熱狂!!!』
万波中正
いちばんわかりやすく「変えたこと」がそのまま本塁打増につながっている
万波は3人の中で、いちばん因果関係がはっきりしています。
2025年は127試合20本塁打、長打率.431。それでも十分主砲級ですが、2026年は4月23日時点で23試合8本塁打、長打率.543まで上がっています。単なる好調ではなく、打球の質が一段階変わっています。
その背景として、本人がかなり具体的に変化を明かしています。日刊スポーツによると、万波はオフから高めの真っすぐを上からたたく練習を続けていて、テーマは「155キロ、160キロの高い真っすぐを打つこと」。しかもそのために、バットを0.75インチ長くし、重さも880グラムから900~910グラムへ増やしたと語っています。
さらにスポニチでは、万波が昨年11月から基礎トレーニングを増やしてパワーアップし、「フェアゾーンに速い打球を飛ばす」ことを大事にしていると報じています。長いバットは飛距離と外角対応力を上げますが、そのぶん振り遅れやすくなる。そこをフィジカル強化で支えたから、ただの“重いバットに替えた人”で終わらず、飛距離も対応力も上がったわけです。
技術的に言うと、万波の変化はかなりモダンです。
「高めを上からたたく」という言葉は、ダウンスイングしろという意味ではなく、高めの速球に負けない軌道でヘッドを入れるということです。高めに対して下から入りすぎると、差し込まれてフライか空振りになりやすい。万波はそこを修正し、しかも長く重いバットを扱えるようになった。だから、速球への強さと、外の球を飛ばす力が同時に上がっている。3人の中では、万波がいちばん「フォーム・道具・体づくり」が一直線につながって本塁打増になっている選手です。
【狙いすました一撃】万波中正『ファイターズ打線が止まらないッ!!! 今季4号3ランで球団23年ぶりとなる開幕7戦連続HR!!!』
野村佑希
本塁打が増えた一番の理由は、「手の使い方」が整ってバットが素直に出るようになったこと
野村は2025年に101試合8本塁打、長打率.398。それが2026年は4月22日時点で15試合4本塁打、長打率.596です。3人の中で、率の伸び方だけならかなり大きい。少ない試合数とはいえ、打球の中身が明らかに変わっています。
その最大の要因は、春季キャンプでの山崎武司の技術介入だと思います。日刊スポーツによると、山崎氏は右の強打者たちに打撃指導を行い、とくに野村についてかなり気にかけていました。別記事では、新庄監督が紅白戦後に「バッティングは山崎さんのおかげですごく変わった」とまで言っています。ここまで明確に首脳陣が名前を出すのは珍しく、それだけ変化が見えていたということです。
この変化の中身については、報道ベースだと手の動きがポイントです。山崎氏は、右の強打者に対して「本塁打の打ち方」ではなく「いい打ち方」を伝えていたとされ、野村にはとくに手の使い方に関する練習法を授けています。要するに、無理に上げにいくのではなく、バットが自然に内側から出る形を作る方向です。
これは野村にかなり合っていると思います。
野村はもともと、体が大きくて飛ばせる一方、タイミングや手元の動きが少しズレると、強い打球がゴロや差し込まれたフライに変わりやすいタイプでした。そこが今年は、手の出方が整理されて、トップからインパクトまでの無駄が減っているように見えます。だから本塁打だけでなく、打率.298、長打率.596という形で、「当たれば飛ぶ」ではなく「当たり方そのものが良くなった」状態になっている。野村の本塁打増は、3人の中でいちばん“打撃技術の修正がそのまま数字に出たケース”です。
参照:【敬遠策に 超”燃えたッ】野村佑希『完璧に弾き返した“マジなめんな打法”炸裂!!! 今季3号・決勝3ランで歓喜の雄叫び!!!』
